自意識の膨張を食い止めるモノ
最近、スマホゲームの「デュエル・マスターズ プレイズ」をやり始めた。
少し前に会った友人と子供の頃やっていたカードゲームの話をして、また遊びたいなと思ったのがきっかけだ。
別に遊ぶのは「遊戯王 デュエルリンクス」でもよかったのだが、「プレイズ」の方がよりオリジナルのカードゲームに近いルールで遊べるという理由から、そっちを選んだ。
当該のカードゲームは数年前にブランディングの刷新を行ったようで、近年はなんというか「コロコロっぽい」ネーミングのカードばかりだったのだが、アプリの方はそれより前の時代に遊んでいた、自分と同年代くらい(20代から30代?)ユーザー層をメインターゲットに据えているらしく、カードのラインナップも懐かしいものばかりだ。
「デュエル・マスターズ」に限らず、あらゆるTCG(トレーディング・カードゲーム)の醍醐味は「カードを集め、デッキを組み、相手と戦って勝つ」ということに集約されていると思う。
カードパックを購入し開封する瞬間の緊張と期待感、そして目当てのカードを引き当てた瞬間の興奮、外れた時の失望。
様々な制約のなかで最適な戦略を定め、多様な特徴を持ったカード群を束ねてデッキを作り上げる時のワクワク。
そうして作り上げたデッキでもって、資本にモノを言わせた高いカードパワーを持つデッキを打ち破った時の高揚感。
ぼくは瞬く間に少年時代の感覚を鮮明に思い出し、たちまちバーチャル世界でのカードゲームの虜になった。
アプリを起動していない間、例えばアルバイト中なんかでも、頭の中で手に入れたカードを使ってどんなデッキを組んでやろうか、流行りの戦術を打ち破るには今の自分のデッキをどのように改良しよう、なんてことばかり考えている。
そんな自分の状態をあとで客観視して気づいたことなのだが、カードゲームのことを考えている間は、自意識がいっさい肥大しないのである。
ぼくをよく知る人間ならお分かりかと思うが、ぼくは超がつくほどの自意識過剰である。
24時間365日、暇さえあれば自分が人からどう思われているかや、過去の後悔、将来への不安なんかがパン酵母のようにむくむくと膨らんできて、思考を圧迫してしまう。
そんな状態が日常茶飯事であるがゆえに「ねぇ、君話聞いてる?」とか「あなた、私の話に興味ないでしょ」なんて言われたことは一度や二度ではない。
そんな異常発達した自意識が、カードゲームの前では鳴りを潜めるのである。
画期的な発見だった。
手立てのない病気に対する治療薬が見つかったというか、ドラキュラに対するニンニク、口裂け女に対する「ポマード、ポマード、ポマード」みたいに、襲ってくる脅威に対抗する手段を手に入れた気持ちだ。
十余年己の自意識と格闘した上で断言できることだが、浮かび上がってくる不安や誇大妄想と戦ったところで、得られるものなんてほぼ皆無だ。
「何か別の外的な要因で思考のスロットを埋め尽くしてしまう」という方法は、虚無の空想に振り回され大切な時間をスポイルさせないための手段として有効かもしれない。
とはいえ、木材を据え付けようと釘を打ち込んだら別の箇所が盛り上がってしまうように、ある問題の解決が見えた矢先に、別の問題が浮上してしまうものだ。
ゲームに夢中になるあまり、目下の課題や日々の些事がおろそかになり始めている。
さらに将来のキャリア形成という面で考えたら、貴重なヒューマンキャピタルと可処分時間をカードゲームに投資するということは、あまり褒められたことじゃない。
日常をステディに過ごせるようバランス感覚を保ちながら、カードゲーム以外にも自意識を外に追いやれるようなものごとを見つけていきたい。
願わくば、それが将来の収入増加に寄与できるようなものを。