栞のテーマ
ある程度紙の本を買う習慣のある人なら身に覚えがあると思うが、新しく本を買うたびに新しい栞が挟まれて、気がついたら所有している栞の数がとんでもなく多くなってしまう。
ぼくはだいたい書店で本を買う。Amazonの利便性も重々承知しているのだが、あの四方を本に囲まれた空間は何ともぼくの好奇心を刺激して、良い本との偶然の出会いに心を弾ませる、あの感覚がたまらなく好きなのだ。
書店で本を買うと、書籍にもともと挟まれているものに加えて、本屋の店員さんが店の名前の入った栞を追加で挿してくれることが多い。そうすると1冊本を買うにつき2つの栞を手に入れてしまうことになる。
もし本1冊につき必ず栞が2枚同梱されるとしたら、10冊買う頃には20枚の栞が手元に存在することになる。
大量消費社会の負の側面を感じずにはいられない*1。
何より良くないのは、同じようなデザインの容易に手に入るものを何枚も所有していることによって、読書をするうえでの”道具”であるべきはずの栞が、代替可能な消耗品へと堕してしまうことなのである。
一時のレジャーではなく競技としての卓球を愛する者が、ラウンドワンにある備え付けのラケットしか使わないのはいかがなものだろうか。自分のラケットを購入して使うのがしかるべき姿勢ではないだろうか。
ぼくの友人でボウリング好きの男がいるのだが、彼は高校時代から毎回マイシューズを持参してボウリング場に来ていた。
仮にも本好きを自称するのであれば、読書のお供である栞はしっかりと「愛用品」に昇華させるべきではないのか。
ぼくはそう考えている。
そして、この場を借りて提案したい。
栞を、自分で作るという選択肢を。
栞の作り方
1.チケットや入場券を栞代わりにする
メリット:手に入れてそのまま使える
デメリット:自分好みのものを見つけるのが大変
レジャー施設の入場券や寺社仏閣の拝観券。
旅の思い出として保存してあるという人も少なくないと思われるが、中には栞としてそのまま使えるものが存在する。
ぼくはこの方法を、京都に旅行に行ったときに考え付いた。
世界遺産に登録されているような寺社仏閣の拝観券の多くは、紙の間に挟んでおくのに非常に適したものになっている。
特に清水寺の拝観券は最高だった。形、大きさ、質感、デザイン、どれをとっても完璧だった。
外出の折になくしてしまったとき、わりと本気でショックを受けた。
現在はなかなか外出が厳しい状況ではあるが、再び移動の自由が確立された折にはぜひとも試していただきたい。
2.ポストカードを切り抜いて栞にする
メリット:絵柄やサイズを自分で調整できる
デメリット:費用がかかる、裏側が不格好になりがち、絵柄によっては入手困難なものも
ポストカードを栞の形状に切り抜いて使うことで錬成する方法。
あえて絵葉書、ポストカードである理由は、はがきの紙が栞にするにはおあつらえ向きの質感だからである*2。
最大の利点は、絵柄を自分好みのものにできるところ。
ポストカードのデザインは数えきれないほど存在する。その中から自分好みの絵柄を見つけて、切り取れば自分だけのマイ栞が簡単に出来上がる。
3.ムエットを使う
メリット:香りをつけて楽しめる
デメリット:借りた本には使いづらい、男性の場合、人によってはもらうのに勇気がいる。
ムエットとは、香水やアロマオイルなどの匂いを試す際に用いられる紙のことで、匂い紙や試香紙とも呼ばれる。
家族でショッピングに訪れた際に香水売り場で見つけ、「これは使えるぞ!」と思いそのまま貰って栞として使っている。
化粧品ブランドが使っているものなのでデザインは折り紙付き。
問題点をあげるとしたら、香りが付いた状態では自分の持ち物である本にしか使えないことや、男一人で香水売り場に赴いて貰うのは少々ハードルが高い、というところか。
そのほかにも、いろいろなアイデアがあるはずだ。ぜひ探していただきたい。
自分で栞を作り使用することで、そのもの自体に愛着が湧いてくる。
だが、それ以上に一番の醍醐味は、栞にできそうなものを見つける過程にあるのだと、ぼくは思う。
われわれは普段の生活で、実にたくさんのモノに触れる。特別に意識をしなければ、モノはモノそれ自体として認識され、それ以上の意味を持たないだろう。
だが、「あるものを別のあるものとして使う」というフィルターを通してみれば、同じものでも別の可能性が表れてくる。
よく通っていた飲食店のサービス券、洋服のタグ、映画館の半券。
普段特に気にも留めなかったものが「別の用途で使えるかもしれない」と意識して凝視したときに、そのものが持つ新たな魅力が、スッと見えてくるかもしれない。
こうした日常の再解釈が、ぼくにとってはとても楽しいのだ。