暇を潰す
家にいる時間が長い。
世界的に感染が拡大しているCOVID-19の影響により、日本の全都道府県を対象に発令された緊急事態宣言によって、生活様式がガラッと変わってしまった。
アルバイトしている都内の喫茶店は条例によって営業休止になり、自宅2㎞圏内から外に出ることが滅多になくなってしまった。
働いている友人は日々の業務をテレワークでこなしているようで、インスタグラムにアップする飲食店の料理の写真は、そのほとんどが自宅での手料理の写真に替わっている。
飲み会好きの友人はもっぱらZoom飲みというものに興じているようで、パソコン画面に複数人の顔が映っている投稿が目立つ。
こんな状況だから、ほとんどの時間を自宅で過ごす羽目になってしまっている*1のだが、ぼくのような自分を律して計画的に過ごすのが得意でない人にとっては、こいつはちょっとした危機なのだ。
有効に使えるはずの時間を、浪費しかねない。
自宅で過ごす時間が多くなるということは、必然的に可処分時間が増える。
自由時間が増えるということは一見素晴らしいように聞こえるが、拘束時間が存在することである程度の充実感が得られることも事実である。
部活や受験勉強、仕事などでハードワークをしていた人が引退や退職によって急に暇になると、はじめの数日は解放感を感じるけど、だんだん生活に張り合いのなさを感じてくる、なんてたぐいの話は皆さんもよく耳にするんじゃないだろうか?
ぼくが思うに、人間は自分たちが思っている以上に”暇”に耐えられない。
いや、「耐えられない」という言い方は適切ではないな。
暇の効用には逓減性*2がある。
経済学の用語で「限界効用逓減の法則」というものがある。
腹が減っている時に、どんぶりご飯を1杯食べればとてもおいしく感じるはずだ。けれど2杯、3杯と食べているうちにだんだん満腹感からくる苦しさが勝ってきて、最後は「もう、いらないよ」となってしまうだろう。
財*3から得られる満足感は、ある程度までは量を増やせば増やすほど大きくなっていくが、ある点を境に伸びが止まって、そこから先は量を増やすほど満足感が減少していく。
「過ぎたるは猶(なお)及ばざるがごとし」というアレだ。
暇な時間もまた、ある程度まではありがたいが、程度を過ぎると逆に苦痛になってしまうのだ。
暇な時間を作りたくないから、手っ取り早くその暇を埋める手段を考える。
その結果たどりつくのは、ただただ時間を浪費する選択だ。
やるべきこと、やりたいことがたくさんあるのに、1日ベッドで寝ころびながらスマホをいじって過ごしてしまった。
こんな日々が続けば、頭も精神も弛緩してしまう。
時間は資産だ。
自由に使える時間は自分のために、濃密で効率の良い時間にしたい。
ぼくはそう考えた。
まず取り組んだのは、一日のやることを可視化する作戦だ。
to do listアプリをダウンロードし、1日のタスク・やりたいことを10個書いたのちに、実行したらチェックをつけていくことにした。普通にやれば5個、ちょっと頑張れば7個、すごく頑張れば10個こなせるくらいの難易度を目安に、1日のアクションを設定していった。
最初のうちは自分で決めたことを実行する楽しさと、ゲーム感覚でチェックが増えていく達成感でどんどんタスクをこなしていけたが、徐々に10個のやることを決めていく作業がしんどくなっていった。1日のto doの数は8個、5個と次第に減っていき、現在は2日飛ばしでなんとか記録できている、という次第だ。
「やること」だけじゃ不十分だ。何か別の要素がいる。
そう思って自分の自粛生活を省みると、「所要時間」という問題点にぶちあたった。
1日のやることを決めたはいいが、それらを「どれくらいの時間で達成させるか」に関しては全く考慮をしていなかったのだ。
それはつまり、やりたいこと、やるべきことがはっきりしただけで、時間の使い方に関しては何も変わっていない、ということだ。
「何をするか」だけでなく「いつやるか」「どれくらいの時間でやるか」を決めることで、初めて暇は暇でなくなるのだ。
ぼくは一日のタスクに加えて、タスクの時間配分を定めることに決めた。
文字通り、暇な時間を”潰して”、意味のある時間を想像しようという魂胆だ。
1日を細長い土地にたとえると、暇な時間はまだ誰にも占領されていない部分だ。
手を付けずそのまま放置していると、どこからか蛮族がやってきて無秩序に占領し始め、そいつらがどんどん幅を利かせてしまう。
時間を浪費した挙句夜更かししてしまうときは、時間という地平で野蛮人が暴れまわっているのだ。
奴らをのさばらせないためにも、防壁を築く必要がある。
あらかじめ一定の領域を確保し、そこにまず枠を定める。蛮族が入ってこないように防壁を築いて、初めて文明を発展させることができるのだ。
毎日午前中は、自己投資の時間にしようと決めた。この防壁は死守しようと思う。
どんな文明が築かれていくのか、今から楽しみだ。